1.コスト競争力と人材育成
工場がコンペチタに対し常にコスト競争力優位に立つ、そのためには対峙するマーケット等の環境の変化に対し、製造システムの改善改革を実行し、管理損失が出ないように管理水準を上げていくことが必要です。つまり、「工場の環境が変わっても、コストを最少化し、付加価値を変わらず出し続ける」という工場の体質を創り上げなければなりません。
そのためには製造システムに携わる工場のメンバー、つまり『人材』が付加価値開発の技術を身につけることが重要です。それによって、コスト競争力優位に立つための具体的な課題の抽出、企画化からアクションプラン立案ができるように育成されるのです。
2.管理サイクル(PDCA)の目的は人材育成
付加価値開発技術は、マーケットと対峙した実際の製造活動の中で身に付くものです。特別な教育を施したり、座学で講師から学ぶものではありません。技術の技の字は「手が支える」と書くように、技術は机上では身に付きません。実際に手を動かして身に付くものです。
具体的には各工場の部署内、部署間、あるいは工場と他部門の間でコストに関するすべてのファクターに関し、管理サイクル(いわゆるPDCA)をしっかり回すことで身に付いてくるのです。基準(製造基準・品質基準・運用基準等)を定め、それを工場の正しい姿として、計画(P)を立てます。基準や計画に対する実績(D)の評価(C)を行い、現場の時間や量、エネルギー等に管理損失が発生していれば対策(A)を立てます。つまり、実際に業務の中で管理損失を発見し、それを回復するための企画化やアクションプランを立てるのです。管理サイクルを日常の中で回す目的は、管理損失の発生を最少化し、コストを最少化すると同時に、何より実践の中から人材の育成が図ることなのです。
管理サイクルを回すことは簡単そうですが、次のような工場の基盤がなければ、うまく回りません。
◎各部門の役割やミッション、コストの管理対象が明確であること
◎コストに影響するすべてのファクター(時間・量・品質・エネルギー・作業・3Sやレイアウト等)が明確に体系的に捉えられ、基準が定められていること
◎工場における基準や生産性、管理損失に対する考え方がきちんと啓蒙されていること
このような基盤創りをしっかり行い、管理サイクルを回すことによって、課題が出てきます。その課題は人の思考に働き、例えば「ラインバランスを取るために工程にどのような設備改善をしなければならないか、その設計要領は?」「段取り時間を少なくするためにどのような作業管理をしなければならないか、その業務設計は?」を考えるようになるわけです。そこに付加価値開発技術が生まれ、人のスキルが身に付きます。
3.マネージャーの役割
このような人材育成をいちはやく行うのはマネージャーの役割です。マネージャーはコストを最少化し、利益を出すのが仕事です。そのために自分がやってほしいことに答えてくれない部下では困るのです。だから部下の育成はマネージャーの役割なのです。マネージャーは部下に技術を身につけさせる”場”を与えなければなりません。そのため、前記のような、工場の基盤を構築するのです。役割を明確にしたうえで管理サイクルを回し、日常の業務の中から課題を抽出、アクションプランを立てる、そういったことを体験できる”場”を与える必要があります。マネージャーは、それを検討していかなければなりません。
工場にはコスト競争力強化のための様々な課題があると思います。更に課題解決のためのアクションプランには多くのイベントがあります。人材育成のポイントはこのイベント1つを一人にフルにやらせるということです。複数の人で分担するとうまくいきません。つまり「自分で考えて、自分でやってみて、自分で判断して」のように自己完結の形が大事です。時には実作業もあるでしょう。マネージャーはやり方についてもよく検討する必要があります。
4.技術の標準化と後継者への継承
工場の人材が身に付けた付加価値開発技術はその後、業務標準として整理されることが重要です。日常の管理サイクルから身に付いた技術が個人の中にある場合というのは以外と多いものです。様々な企業の工場で製造部署の方とお話をしていますと現場の技術、いわゆるフイールドエンジニアリングの話がいくつも出てまいります。例えば、オペレーションの技術、管理技術、製造技術等々。折角身に付いたこれらの技術を、コスト管理上、品質管理上の何に効いてくるのか、その技術の機能(目的や働き)を明らかにし、定義付けをし、技術標準・作業標準や急所という形で纏めていくのです。工場の技術の体系が出来上がります。それが後継者への技術・技能の継承に繋がっていきます。
5.まとめ
本コラムの内容を纏めると次のようになります。
①工場が競争優位に立つためには、工場のメンバーが付加価値開発技術を身につけるよう人材育成をしていかなければならない。
②その技術は日常の管理サイクルを回しながら実践的に身につけていくものである。
③そのためには工場を管理状態(管理サイクルが回った状態)にすることが重要である。
④人材育成はマネージャーの仕事であり、部下に③のような”場”を如何に与えるかがポイントになる。
⑤身に付いた技術は個人の中に埋もれさせるのではなく、技術標準・作業標準という形で標準化を行い、後継者へ継承させる。
こういったことの積み重ねが、次のような工場の人材を生むこととなるでしょう。
①工場の目標や目的に向かって人と人が連鎖しながら働いている
②自分の仕事においてマーケットのニーズをいかに実現しようか、考えながら業務遂行している
③自分の仕事において常に上のレベルに向けて研鑽している
④自分の仕事が会社の成長や存続を支えていると自負し、その心意気で業務に取り組んでいる